エリソ・ヴィルサラーゼ&アトリウムSQ@紀尾井ホール

2017.12.04.Mon.19:00
今年、私が聴いた音楽会の履歴をみると、ロシア系のピアニスト、そしてロシア・ピアニズムの教育を受けた日本人ピアニストのリサイタルへ行くことが多い年になりました。

先週、私はグルジア出身のピアニスト、エリソ・ヴィルサラーゼがアトリウム弦楽四重奏団と共演する室内楽の音楽会を東京・紀尾井ホールで聴いてきました。エリソはモスクワ音楽院でネイガウスらに師事したので、あの偉大なピアニスト、リヒテルやギレリスと同門ということになります。だからバリバリのロシア系ピアニストです。しかしどちらかというと教育者としての方が有名かもしれません。ボリス・ベレゾフスキーはエリソの弟子です。私は3~4年ぐらい前から彼女が来日する時は必ずリサイタルを聴きに行っています。彼女の読譜は非常に深く、作曲家がいまそこで作曲したかのような瑞々しい感興を音符から読み解いて表現できる稀有なピアニストだと私は考えています。特にシューマンのような難解な感性の作曲家の演奏が得意だと感じています。

なぜか今回の来日ではピアノ・リサイタルの予定はなく、協奏曲と室内楽の2つの音楽会が東京で行われました。前者は新日本フィルと一夜で3曲のピアノ協奏曲(モーツァルトの15番、ベートーヴェンの2番、ショパンの1番)。後者はアトリウム弦楽四重奏団との共演の室内楽。私のチョイスは、大好物であるショスタコーヴィッチとシューマンのピアノ五重奏曲が聴きたいので後者としました。
プログラムは以下の通りです。

■エリソ・ヴィルサラーゼ&アトリウム弦楽四奏団|演奏会
■2017年11月28日火曜19:00~21:20@紀尾井ホール
♪モーツァルト/ピアノ四重奏曲 第1番 ト短調 K.478、
♪ショスタコーヴィチ/ピアノ五重奏曲ト短調 作品57、
♪シューベルト/弦楽四重奏曲第12番ハ短調「四重奏断章」 D703、
♪シューマン/ピアノ五重奏曲変ホ長調 作品44

エリソ・ヴィルサラーゼ(ピアノ)
アトリウム弦楽四重奏団
 ボリス・ブロフツィン(ヴァイオリン)
 アントン・イリューニン(ヴァイオリン)
 ドミトリー・ピツルコ(ヴィオラ)
 アンナ・ゴレロヴァ(チェロ)

まずは、日立から東京まで、はるばる聴きに来てよかった!と思える演奏でした。ホールは9割ほど埋まっていました。客層もよく、みなさん音楽によく集中して聴いていたと思われました。こういう室内楽系の音楽会は、ミーハーはほとんど来ませんからねぇw。
はじめて聴いたアトリウム弦楽四重奏は、ロシア出身の音楽家から構成されているようです。全体的に音が暗めでシャープな響きでした。

さて前半最初のモーツァルトのピアノ四重奏曲第1番、しみじみ聴いたのは今回が初めてと言ってもよいかもしれません。モーツァルトの有名なピアノ協奏曲やピアノソナタと比べると影が薄いからです。しかし聴き方によってはピアノと弦楽三重奏のための小協奏曲と言ってもいいほどピアノが大活躍。短調なのでメランコリックな部分がありますが、ピアノとストリングスが対話を楽しむようなチャーミングな演奏。短調なのに明るく聴こえるアンビバレンス!

それに続くショスタコーヴィッチのピアノ五重奏曲もト短調。神妙、緊張感、陶酔感にあふれていました。ショスタコ特有の社会主義リアリズム的闘争はなく、極めて人間的な演奏。五重奏曲なのにそれ以上の音楽的な厚みが感じられました。作曲者の哀しみに共感し寄り添うような演奏者たち。エリソのピアノは特にレガートが印象的。また女性チェロ奏者の歌い方がとても表情豊かでした。

前半2曲はどちらもト短調。同じ調性であるにも関わらず「光と陰」のような印象でした。しかし根は同じ。沈鬱、哀しみの中にあっても人間的な温かさやぬくもりが感じられる演奏でした。

後半の一曲目はシューベルトの弦楽四重奏曲第12番ハ短調。といっても第一楽章しか残されていませんw。だから未完の曲。この曲をライブで聴くのは初めてでした。前のショスタコの曲が継続していたかのような厳しい緊張感に満ちていました。この音楽も、モーツァルトのピアノ四重奏曲がピアノ+弦楽三重奏のよう…と思ったように、独奏ヴァイオリン+弦楽三重奏という成り立ちであるかのように、第一ヴァイオリンが美しいメロディを終始奏でていて大活躍でした。という点では、この曲は前半2曲と「トリ」のシューマンのピアノ五重奏曲へのブリッジという位置づけだったのでしょうか?

最後に演奏されたシューマンのピアノ五重奏曲、たいへん感銘を受けました。シューマンの室内楽曲は彼の管弦楽曲に見られる音の厚塗り感がないので私は好きです。エリソのピアノは、主導権をとっていたのは確かですが、突出することなく全体のバランスを見ながら…というものでした。なぜか私、エリソのピアノの音色に、バターの芳香を感じてしまったw。またチェロの独奏に重ねるピアノの響きも絶妙。
それと私、彼らの演奏を聴きながらある発見をしました。このシューマンのピアノ五重奏曲変ホ長調の楽想の流れがベートーヴェンの交響曲第3番変ホ長調「英雄」に似ているのではないかということです。そんなことを感じたのは演奏会の数日前、自宅でセル指揮&クリーブランド管の「英雄」のCDを聴いていたことが伏線になっていたのかもしれません。調性が同じであるのは言うまでもありません。後から調べてみると、
シューマンのピアノ五重奏曲の各楽章は、
①アレグロ・コン・ブリランテ→②葬送行進曲→③スケルツォ→④アレグロ・マ・ノン・トロッポ。
一方でベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」は
①アレグロ・コン・ブリオ→②葬送行進曲→③スケルツォ→④アレグロ・モルト。
似ていると思いませんか?またシューマンのピアノ五重奏曲の冒頭、「ミーレードーラー」という勇壮なファンファーレに続く甘美なメロディへという流れは、英雄交響曲の冒頭の2音の強打の後に続く勇壮な第一主題への流れにも似ている。それと、ピアノ五重奏曲の第一楽章は主題労作的でまさにベートーヴェンの手法じゃないかと思えました。シューマンはベートーヴェンを尊敬していたので、英雄交響曲を下敷きにしながら、自身のオリジナルの音楽を完成させたと私は考えました。この曲はこれまで何度も聴いてきたのに、このようなことを考えたのは、エリソたちの演奏がそう思わせたことを申し添えなければいけませんね。

最後にプログラムにあった4曲の調性の構成がなんともおもしろい面白いと思いました。
前半はト短調が続けて2曲。フラット♭が2つ。
後半はハ短調と変ホ長調。これらは平行調の関係でフラット♭が3つ。
フラット♭2-2-3-3。なんとも言えない規則性です。演奏者の意図はちょっと分かりませんw。

今年、私が聴いた演奏会のベスト3に入りそうな演奏会でした。たいへん満足しました。終演が21時20分。帰りの便の都合があるので、私は急いで東京駅に向かいました。
次のエリソの来日公演では、ぜひピアノ・リサイタルをまた聴きたいです。

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