原田英代ピアノ・リサイタル「さすらい」

2017.03.05.Sun.22:38
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3/3の「耳の日」、東京・白寿ホールで原田英代ピアノリサイタルを聴いてきました。
私が原田氏の名を知ったのは、mixiでお世話になっているマイミク・ベルウッドさんの日記で紹介されていた彼女の著作『ロシア・ピアニズムの贈り物』(みすず書房)からでした。私と同様、その日記を読んだマイミク・GRFさんが原田氏のレクチュア・コンサートへ行かれた日記もそれに続くようにUPされ、いっそうロシア・ピアニズムに興味を持ちました。これまでリヒテルやギレリスなどロシア出身のピアニストのCDは聴いてきましたが、私もこの著作を読みたくなり、ネットでポチしました。(趣味の音楽の本としては3,600円はちょっと高いw)リストの系譜につながるロシア・ピアニズムの歴史、名匠メジャーノフの教え、ロシア・ピアニズムの奏法などが記される大著。なかなか深い内容でしたが、今後、音楽を聴いていくには示唆に富んだ内容がいっぱい詰まっていました。そして、いつか原田氏の演奏を聴いてみたいと思っていましたが、やっとその機会が、「耳の日」にやってきました。

会場の白寿ホールに入ると、「やっぱり来てた…」を思わず笑いました。ベルウッドさんとGRFさんがホワイエにいらっしゃったからです。マイミクさんになっていただいたばかりのAionさんと4人でしばし歓談。「ロシア・ピアニズムがアワー・ブームですね。再来週のイリーナ・メジューエワのオール・シューベルトのリサイタルでも会えそう…」と大笑い。

この演奏会は5回シリーズの1回目で、今回の「さすらい」の後、「葛藤」「変容」「統一」「光」と続くそうです。演目はブゾーニ編のシャコンヌ、さすらい人幻想曲、オーベルマンの谷、ラフマニノフのコレルリ変奏曲。

原田氏は著作で、「自分は小柄な方で手もあまり大きくない」と書かれていましたが、恩師メルジャーノフの「(10度が届かないのならば、指を)伸ばせばいい」という言葉に「救われた」という話がありました。確かにステージでみる彼女の手はあまり大きくは見えませんでした。

シャコンヌの演奏がはじまると正直、驚いたのは音量の大きさ。木の箱であるピアノが非常によく鳴っています。もっと抑えて弾いたほうが聞きやすいと思ったくらいです。彼女の指は鍵盤を弾くあるいは叩くという感じではなく、鍵盤に触れるようでした。手首を柔らかく使い、腕だけでなくお腹や背中などの筋肉をつかっていました。これは著作にあった「重量奏法」なんだなと実感しました。ピアノ編曲版のシャコンヌで私が感心したのは、四声のフーガのところでバス・テノール・アルト・ソプラノを巧みにちがった声で弾き分けていて声楽のように聴こえてきたことや、時おりパイプ・オルガンのような響きが感じられた瞬間があったこと。このような響きを感じたのは初めてかも。

シューベルトのさすらい人幻想曲は、超絶技巧満載の難曲です。冒頭の「タータタ」とういリズム感がポリーニらの演奏とちょっと違う感じがしました。私が注目していたのは原田氏がメジャーノフの言葉「シューベルトの演奏で特に大切なのは休符である。彼は音がない箇所でも雄弁だった。」というところをどう弾くかとういことでした。やはり第2楽章の表題のもとになった歌曲「さすらい人」のところが顕著に出ていました。音に言葉を託しながら、余白を十分に意識した歌うような演奏だったと思います。

後半は、リストの「オーベルマンの谷」。後半に入って、原田氏も調子が出てきたようですね。前半に比べて音量を抑えて弾いてくれるようになったようです。弱い音が本当にキレイでした。白寿ホールは300人ぐらいのホールです。私はもっと大きいホールで、弱音が隅々まで行き届くような響きを実感してみたいと思いました。リストの苦悩に満ちた声と天からの差し込む救済の光が、美しい弱音から見てたような気がしました。

ラフマニノフのコレルリの主題による変奏曲は、「狂気」を意味するイベリア半島の舞曲ラ・フォリアを主題にした音楽です。狂気が姿や形を変えながらさすらう様子を、大聖堂で鳴り響く鐘のような大きな音、弱音で囁かれる言葉のようなものを聴いた気がしました。最後のコーダでは、その狂気がプツッと消えてしまったように終わりました。

アンコールで弾かれたラフマニノフ、シューマン、チャイコフスキーの小さい曲も、ロシア・ピアニズムが凝縮したような演奏でした。GRFさんは、アンコールを最初に弾いてから大曲を弾いた方がよかったかも…と言っていましたが、私もそのような気がしていました。

今回の演目を聴き終えて、「さすらい」というお題目とは、作曲家の苦悩・悲しみ・別離などが人生という「さすらい」を通してどう救われるのか…それらを音に置き換えて演奏しようという意図が感じられましたが、それと同時に原田氏自身のピアノと共に歩んできた「さすらい」の歴史の一端も垣間見れたような気がしました。

終演後は、3人のマイミクさんたち(GRFさん、ベルウッドさん、Aionさん)と一緒にワイン・バーで感想戦でした。私は帰りの高速バスの時間の関係で30分だけ参加。みなさん、耳が鋭いので、たいへん勉強になりました。


■原田英代ピアノリサイタル 第1回 <さすらい>
■2017年3月3日金曜19:00~ @白寿ホール

J.S.バッハ=ブゾーニ:無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番 ニ短調 BWV.1004より “シャコンヌ”
シューベルト:幻想曲「さすらい人幻想曲」 ハ長調 D.760
【休 憩】
リスト:巡礼の年 第1年「スイス」 S.160 より “オーベルマンの谷”
ラフマニノフ:コレルリの主題による変奏曲 op.42
【アンコール】
① ラフマニノフ:プレリュード ト長調op.32-5
② シューマン:「ウィーンの謝肉祭の道化」より 間奏曲 op.26-4 
③ チャイコフスキー:「四季」より6月「舟歌 」
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