エディタ・グルベローヴァ|ソプラノ・リサイタル@川口リリア

2016.11.15.Tue.00:02
11/12土曜、埼玉県川口市のリリア・ホールで、エディタ・グルベローヴァのソプラノ・リサイタルを聴いてきました。69歳とは思えない素晴らしいパフォーマンスでした。私、感動を通り越して驚愕しましたよ。わざわざ日立から聴きに行った甲斐がありました。会場もほぼ満席。ここに来た人のほとんどが満足していたようでした。

プログラムは、前半がスラヴ系の内省的な歌曲、後半は超絶技巧を含む華麗なアリアなどが並んでいました。この構成はかなり成功していたと思います。前半は安全運転で声の調子を見ながら、後半は喉の調子が上がったところでギアチェンジする作戦だったのでしょう。

前半に歌われたチャイコフスキーやリムスキー=コルサコフの歌曲はあまり聴く機会がない曲ですがとても美しい情感豊かな曲でした。特にリムスキー=コルサコフの歌曲は聖歌のような神秘性を持っていました。私、歌劇「金鶏」の「太陽への讃歌」を思い出しました。ドヴォルザークの歌曲集「ジプシーの歌」の第4曲目「わが母の教えたまいし曲」はたいへんに有名な曲です。やや遅めのテンポで、しみじみと歌われました。グルベローヴァは故郷(旧チェコ)の人々の心情や景色を思い浮かべながら歌っていたように思われました。

後半は、コロラトゥーラ・ソプラノの圧倒的な技巧が堪能できる演目が中心でした。シャルパンティエの「ルイーズ」やプッチーニの「つばめ」の「ドレッタの夢の歌」、デラックァの「牧歌」、アリャビエフの「夜鳴きうぐいす」、ヨハン・シュトラウス2世「こうもり」のアデーレの「侯爵様、あなたのようなお方は」。ロシアの作曲家アリャビエフの「夜鳴うぐいす」は、30年ぐらい前に初めてグルベローヴァの買ったorfeoのCDにも収録されていた曲です。実演が聴けて感慨深かったです。プログラムの最後の演目ヨハン・シュトラウス2世の喜歌劇「こうもり」のアデーレのアリアは演技付きで楽しさ満点。このアリアのちょうど合唱が入る箇所になると、熊のように大柄なピアニストがピアノを弾きながら急に立ち上がって“Ja,sehr komisch,hahaha, Ist die sache,hahaha!”と歌いだして、会場は大いに盛り上がりました。この演目でリサイタルが終わりではないことを暗示していました。心配していた声の揺れはなく、全盛期に匹敵と書いてもよいぐらいのパフォーマンスでした。

アンコールは第3部と言ってよいくらいの出血大サービス。最初はスメタナの歌劇「くちづけ」の中のアリアのようです。私にははじめて聴いた曲。グルベローヴァのレパートリーの広さを感じられました。その後、共演ピアニストのペーター・ヴァレントヴィッチ(水戸公演などプラハ国立歌劇場管弦楽団を指揮)に「あなたも何か弾きなさいよ!」とプッシュされて弾きはじめたのが、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番。ピアノ独奏とオーケストラ伴奏を一台のピアノにまとめて編曲されたもの。各楽章の有名なメロディが上手に組み込まれていました。第2楽章の後に「パガニーニの主題による狂詩曲」の有名な第18変奏もインサートされていました。10分ぐらいの大熱演。そのヴィルトォーゾぶりにホール内は騒然。その次のアンコールは「タンホイザー」のエリザベートのアリア「歌の殿堂にて」。グルベローヴァがワーグナーを歌うというのは私にとって事件に近い。朗々とした歌声。もう終わりかなと思った時、武満徹を思わせる不協和音のコンテンポラリーな響きのピアノ前奏。最後のアンコールは日本語で「さくらさくら」でした。イタリア語のような独特の母音の発声がご愛嬌。日本の聴衆への感謝が込められているような気がしました。会場は熱狂的な拍手と歓声に包まれました。

私、グルベローヴァを聴いたのは3回目。最初に聴いた「ナクソス島のアリアドネ」のツェルビネッタから間が空きましたが、今年10月に水戸で「オペラ・アリア〜オペラ名曲を歌う〜2つの狂乱の場」と今回の11月に「ソプラノ・リサイタル」を聴いたことになります。彼女の歌声を聴いて感じられたことを上げてみると、
・超絶技巧だけでなく、リート(歌曲)も至芸の境地になってきた。
・声の流れが極めて滑らかでしなやかでシルクのようだった。
・ホールの隅々まで響くような弱声が極めて繊細で美しかった。
・楽譜の音程よりも若干上めの音程から被せるように歌っていたゆとり感があった。
・自分のパフォーマンスを自身でしっかりとコントロールしたパフォーマンスだった。
・高音域を蝶のように自在に舞うスピード感と強弱・緩急の切り替えの妙。
・新境地を目指しているかのような演目への挑戦
という感じでしょうか。さらにリートの世界にもっと入ってくれたなら、ディートリヒ・フィッシャー=ディスカウのような「語り」の境地へ入れると思いました。

私、グルベローヴァの69歳という年齢を懸念していましたが、それが杞憂になってくれて本当によかったです。若い時はやや鋭角的だと思っていた歌声に、柔軟性が加わってきて進化しているような気さえしました。そして彼女の人生経験のすべてが詰まった音楽を聴かせてもらったような気がします。私がこれまで聴いてきた歌手の中でも最高レベルで突き抜けた感がある芸術家のひとりと言えそうです。グルベローヴァの前世は、おそらくウグイスだったにちがいないw。

そして終演後もサプライズがありました。
水戸公演と同様、川口公演でもひと目で一般聴衆とは熱気が桁外れの「追っかけ」集団を見つけることは容易でした。その一団が出口とは異なる方向へ歩いていくのを見て、彼らがグルベローヴァに会いにいくのではないか!と直感し、後を追ってみました。すると案の定、楽屋口にたどり着きました。すでに50人ぐらいの人が集まっていました。私は滅多に音楽家にサインをお願いすることはないのですが、グルベローヴァのサインだけは記念に欲しいなぁと思っていました。近くにいた妙齢の和服姿の女性の帯にはサインのようなものが書いてあったので、私は思い切って話しかけてみました。
「これはグルベローヴァのサインですか?」と訊ねると、
「ミュンヘンで聴いた時に書いてもらったの」という返答。
私、家を出る時、グルベローヴァのCDジャケットを持参していって良かったぁと思いました。音楽事務所の人は「写真は禁止、サインは1箇所だけ」と声高に叫んでいました。しかし男前のエディタ姐さんは、気前よく差し出したものすべてにサインをしてくれていました。おそらくこの日の自分のパフォーマンスに満足して機嫌が良かったからでしょう。
世界最高のソプラノの圧倒的な歌声を聴けて、私も大満足でした。

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■エディタ・グルベローヴァ ソプラノ・リサイタル
■2016年11月12日(土)15時〜@川口リリア・メインホール
ソプラノ:エディタ・グルベローヴァ
ピアノ:ペーター・ヴィレントヴィッチ

P.チャイコフスキー:(6つの歌 Op.6)より第5曲「なぜ?」
P.チャイコフスキー:(6つの歌 Op.6)り第1曲「子守歌」
リムスキー=コルサコフ:(春にOp.43)より第3番「清くかぐわしいあなたの立派な花環」
リムスキー=コルサコフ:(春にOp.43)より第2番「高嶺に吹く風もなく」
A.ドボルザーク:(ジプシーの歌 Op.55)より
 第1番「私の歌が鳴り響く、愛の賛歌」
 第2番「さぁ、聞けよ私のトライアングル」
 第3番「森はひっそりと静まりかえり」
 第4番「わが母の教えたまいし歌」
 第5番「弦の調子を合わせて」
 第6番「大きなゆったりした軽い亜麻の服を着て」
 第7番「鷹の翼はタトラの峰高く」
【休憩】
G.シャルパンティエ:歌劇「ルイーズ」より”その日から”
G.プッチーニ:歌劇「つばめ」より”ドレッタの夢の歌”
E.ディラクァ:牧歌
A.アリャビエフ:歌曲「夜鳴うぐいす」
J.シュトラウスⅡ:歌劇「こうもり」より”侯爵様、あなたのようなお方は”
【アンコール】
スメタナ:歌劇「くちづけ」より
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番ニ短調(ピアノ独奏版)
ワーグナー:歌劇「タンホイザー」よりエリザベートのアリア
日本古謡???:さくらさくら
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