第97回水戸室内管定期(ナタリー・シュトゥッツマン指揮)

2016.10.31.Mon.15:07
10月はちょっとバタバタ気味だったというわりには、音楽会へは5回行きました。昨日(10/30)の午後に入っていた予定が夜にずれ込んだため、その日の午後の空き時間、私は水戸芸術館で水戸室内管弦楽団(MCO)の第97回定期演奏会を急遽、聴くことにしました。

この日の指揮者はコントラルト歌手のナタリー・シュトゥッツマンです。2014年1月に彼女が指揮するメンデルスゾーンの「フィガロの洞窟」と交響曲第4番を聴きましたが、私の耳には凡庸な演奏だった印象があり、この演奏会は当初は行くつもりはなかったのです。しかし時間ができたということと、今回のMCOの参加メンバーがなかなかの粒揃いだったので聴いてみる気になりました。しかし、あまり期待していなかったシュトゥッツマンの指揮が、想定外でまあまあ楽しめました。結果的には行ってよかったと思い直しました。

演目は17歳のモーツァルトの交響曲第25番ト短調、26歳のプロコフィエフの古典交響曲ニ長調、17歳のビゼーの交響曲 ハ長調。18世紀の古典派、19世紀のロマン派、20世紀の交響曲が3つ、しかも3人の作曲家の初期の作品ということになります。プロコの古典交響曲はハイドンの交響曲が着想の元なので、前半のモーツァルトとプロコが並んでいるのは、古典派と20世紀の新古典派という対比ができるので合理的な配列と言えるでしょうか。

モーツァルトの交響曲第25番ト短調は、冒頭の悲劇的なシンコペーションのフレーズから始まります。奇しくも映画「アマデウス」の音楽監督をつとめたサー・ネヴィル・マリナーが先日、亡くなったばかりです。私は演奏がはじまった瞬間、その映画の冒頭で自殺未遂をしたサリエリが雪が降る夜道を運ばれるシーンを思い起しました。シュトゥッツマンの演奏では、この悲劇的なフレーズを独特のアクセントと溜めで演奏していたで、私、オッ!と思いました。歯切れもよく、おもしろかった。またこのシンコペーションのリズムが第4楽章でも、さりげなく再現させるところも秀逸。しかしいちばん上手に振っていたのは緩徐楽章でした。もともと声楽家であるシュトゥッツマンはカンタービレのニュアンスを出すのは得意なのでしょうか。木管群が弦にフワッと被さる感じも良かったです。

次のプロコフィエフの古典交響曲、これを聴く時、私はカンディンスキーが描いた抽象画の景色が見えるのですが、今回のシュトゥッツマンの音楽からは深い森を冒険していく風景が見えました。全般的に快活な演奏でしたがプロコ独特の金属的なシャープな音色ではなく、ちょうどステンレスのヘアライン仕上げの表面に光が帯びてあたたかさが感じられるイメージ。コンミスをつとめた竹澤恭子氏はまるでプロコのヴァイオリン協奏曲第1番ニ長調の甘美な独奏をしているかのように演奏していました。私の席から際立って彼女の音がよく聴こえました。彼女は森の妖精に会っていたようですw。

ビゼーの交響曲ハ長調は、実演で聴くのは初めてでした。プログラムにはロッシーニ、モーツァルト、師匠のグノーの影響がみられるということが書かれていましたが、メロディラインの美しさ、若々しさ、透明感、牧歌的な節回しから、私はどちらかというとシューベルトの初期の交響曲に近いニュアンスを感じとりました。この曲の肝は第2楽章。特にオーボエの独奏が良かった。トゥーンドルが吹く哀しげなメロディから、私がかつて訪れたことがある南仏のル・トロネ修道院の廃墟の景色がみえた気がしました。フーガのところの音の絡みも明瞭に聴こえてきましたね。第3楽章の舞踊風のスケルツォは「アルルの女」や「カルメン」を彷彿させるものもありました。フランス人のシュトゥッツマンにとって、母国の音楽からいろいろな景色が見えてくるのは当然かもしれません。

今回の演奏会の全体を思う時、シュトゥッツマンはさまざまな映像的なイメージを音で作り出すことを意図していたように感じられました。それと各作曲家の初期の作品を演奏しながら、後年に作曲される彼らの代表作の片鱗を想起させるようなところもありました。よくよく考えてみると彼女はもともと頭脳派リート系の声楽家なので、楽譜だけでなく、歌詞からいろいろなコンテクストを読み取る術を持ち合わせています。1年半前に比べて、指揮者としての譜読みなどが深くなってきたのでしょうか?シュトゥッツマンは、フランスで自分のオーケストラを編成し、指揮しながら歌うこともやっているようです。ぜひ聴いてみたいと思いました。(下の動画を参照してください)

1点だけ気になったのは、ティンパニ奏者の件。名人だった故アルトマンに替わり、リウッツィという新しいプレイヤーが起用されました。フィラデルフィア管の方らしい。全般的に叩きすぎで目立ちすぎ。黒子のようだったアルトマンとは対称的です。叩く姿が、機械仕掛けのロボットのようでした。あまり好みではない。

■水戸室内管弦楽団 第97回定期演奏会
■2016年10月30日(日曜)14時~@水戸芸術館

モーツァルト:交響曲 第25番 ト短調 K.183
プロコフィエフ:交響曲 第1番 ニ長調 作品25〈古典的〉
ビゼー:交響曲 ハ長調

【指揮】ナタリー・シュトゥッツマン
【出演メンバー(】
*ヴァイオリン:安芸晶子、荻原尚子、川又明日香、久保田巧、佐份利恭子、
島田真千子、竹澤恭子、田中直子、豊嶋泰嗣、中島慎子、
中村静香、Thelma Handy、福原眞幸、渡辺實和子
*ヴィオラ:大島亮、川崎雅夫、川本嘉子、店村眞積
*チェロ:辻本玲、原田禎夫、堀了介、宮田大
*コントラバス:池松宏、谷口拓史
*フルート:岩佐和弘、工藤重典
*オーボエ:フィリップ・トーンドゥル、南方総子
*クラリネット:リカルド・モラレス、中秀仁
*ファゴット:ダーグ・イェンセン、鹿野智子
*ニール・ディランド、猶井正幸、阿部麿、勝俣泰
*トランペット:デイヴィッド・ヘルツォーク、松居洋輔
*ティンパニ:Don Liuzzi

ナタリー・シュトゥッツマンの指揮と独唱
オーケストラは、オルフェオ55
バッハのマタイ受難曲の有名なアリア「憐れみ給え、わが神よ」です。

https://www.youtube.com/watch?v=-Yq04mGvKl0

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