ベートーヴェン三昧の金曜

2016.10.17.Mon.21:44
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10/14金曜は音楽を聴くためだけに上京しました。午後から上岡敏之指揮&新日本フィルの音楽会、夜は小菅優のピアノ・リサイタル。どちらもオール・ベートーヴェン・プログラムでした。

■新日本フィル・アフタヌーンコンサート「ルビー」

午前中、竹橋の近美でドイツの写真家トーマル・ルフ展を見た後、錦糸町のすみだ・トリフォニーホールへ急ぎました。ドイツで活躍していた上岡敏之氏が新日本フィルの音楽監督に就任したと訊いていたので、一度、彼の音楽を聴いてみたいと思っていました。プログラムはコリオラン序曲、ヴァイオリン協奏曲、運命交響曲という絵に描いたようなベートーヴェン・プログラム。調性的にはハ短調→ニ長調→ハ短調という流れ。

最初の演目コリオラン序曲を聴いて、私はちょっとビックリしました。新日本フィルって、こんなに重心が低くがっしりした音って出していただろうか!と。内声音や低音が肉厚になったためでしょうか?私、もともとこのオケの音って軽目で響きも薄くあまり好きではなかったので、ほとんど聴かないオケでした。新音楽監督の薫陶でサウンドが変わりつつあるということでしょうか。

二曲目のヴァイオリン協奏曲の独奏は崔文洙。音がとてもキレイでした。彼は1661年製の名器アマーティを使っているらしい。カデンツァはクライスラー版だったと思う。独奏者は新日本フィルのコンマスでもあるので、指揮者とは旧知の仲なのでしょう。上岡氏の煽りに対し崔氏はよく応えていましたね。この曲のポイントとなるティンパニはまあまあでしたが、やや重かったかも。

後半の運命交響曲にはいろいろビックリがありました。第1楽章冒頭の有名なジャジャジャジャーンの「運命の動機」がアッと過ぎ去ってしまったかのような軽い演奏されたこと。全体的にも早めのテンポ。アレッ?と思っていると、金管群のファンファーレ風のフレーズも「パン・パン・パーン」と祝祭感がある吹き方ではなく、「ター・ター・ターン」とテヌートを効かせて吹かせていたことでした。はじめは部分的に奇異に感じたところはあったものの、慣れてくるとそれほど変とは思いませんでした。全体の流れをみた中での“上岡流”だったのでしょうか。私が好きな第2楽章の第1主題はメロディを際立たせるというよりも、それと対位的な音をよく鳴らしながら、全体が落ちついたサウンド感。この感覚はだいぶ前にホルスト・シュタイン指揮によるバンベルク響の来日公演で聴いた時のものに近いかも。ベルリン・フィルのような輝かしい黄金色の音に対して、ドイツの田舎オケのフラット気味のいぶし銀の深く濃く重い響き。それを上岡&新日本フィルは目指しているのでしょうか?1回聴いただけでは分からないので、しばらくしたらまた聴いてみたいと思いました。

日本フィル・アフタヌーンコンサート「ルビー」
2016.10.14(金) 14:00〜@すみだトリフォニーホール
指揮|上岡敏之
ヴァイオリン独奏|崔文洙(新日本フィル ソロ・コンマス)

♪ベートーヴェン:序曲『コリオラン』op.62
♪ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 op.61
(ソリスト・アンコール)
♪バッハ:無伴奏ヴァイオリンの為のソナタ第1番BWV1001から第1曲アダージョ
【休 憩】
♪ベートーヴェン:交響曲第5番 ハ短調『運命』op.67
【アンコール】
♪モーツァルト:歌劇「フィガロの結婚」序曲


■小菅優「ピアノ・ソナタ全集」完結記念リサイタル

新日本フィルの演奏会の後、雑用を済ませて紀尾井ホールへ到着。ホール内で友人のU氏夫妻と合流。演奏されたのは、第1番、第24番テレーゼ、第17番テンペスト、第21番ワルトシュタイン、第32番。初期、中期、後期の代表的な曲が選ばれていますが、やはり中期の傑作が目を引きますね。この演奏会は32のソナタが全集として発売されたことを記念するものです。

小菅氏が弾くベートーヴェンのソナタの良さを一言で言うなら、「内側から自然に出てくる崇高な感情」だと思います。当日のプログラムも彼女の良さが特に出るものが選ばれていたような気がします。特に第21番「ワルトシュタイン」。第3楽章の高揚感は彼女ならではのものです。天馬が空を掛けるようなイメージでした。個人的には32番が好きな曲なので注目していました。ベートーヴェンの音楽が最期にどんどん純化していって、モダンジャズのような即興的な響きをどう弾くのか楽しみにしていました。天国的な美しさは感じられましたが、表現がやや真っ直ぐすぎると感じました。こういうところは婉曲でもいい。若い彼女にとって人生の下山の境地になったらおそらく演奏は変わるでしょう。

彼女の奏法で私がいいなと思うのは、「鍵盤を叩く」というよりも「ピアノ全体を響かせる」という弾き方、それと弱音がキレイなこと、左手に安定感があって強靭であることです。リストやショパンよりも、ベートーヴェンやシューマンのような作曲家向きじゃないかと思っています。それと欲を言えば、ピリシュのように“いち音いち音”が言葉のように聴こえてくるようになるといいな。

小菅氏は昨年春、32歳でベートーヴェンン全曲演奏会を終えましたが、おそらく彼女にとってベートーヴェンのソナタはライフワークになると思います。プログラムにある彼女の言葉「第1番の最初がドの音から始まり、第32番も最後がドの音で終わる。旅を大きな円環を描くのだ。」がそれを暗示していると思いました。彼女の音楽人生はベートーヴェンとともにあるような気がしました。
この日のリサイタルの客層は良かったです。ノイズがほとんど出ず、気持ちよく音楽に浸れました。

ベートーヴェン「ピアノ・ソナタ全集」完結記念 小菅優ピアノ・リサイタル
2016年10月14日(金)紀尾井ホール@19:00〜
♪ピアノ・ソナタ第1番 ヘ短調 op. 2-1
♪ピアノ・ソナタ第24番 嬰ヘ長調 op.78 「テレーゼ」
♪ピアノ・ソナタ第17番 ニ短調 op. 31-2 「テンペスト」
 【休 憩】
♪ピアノ・ソナタ第21番 ハ長調 op. 53「ワルトシュタイン」
♪ピアノ・ソナタ第32番 ハ短調 op. 111

上岡氏&新日本フィル、小菅氏ともに、クラシック音楽家としてベートーヴェンの音楽はバイブルのようなものです。今後、彼らがどのような方向へ行くのか、再出発という立ち位置に立っているところを実感することができました。

最後にひとつオチがあります。19時からのピアノ・リサイタルの前、夕食をとる時間が取れず、ハラペコでホール入りしました。終演後、22時10分東京駅発の高速バスに乗るためには時間がないのは分かっていました。せっかくなので駅弁を買いました。まさにこの日は「ベートー弁の日」になりました。

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