水戸室内管#95定期(2/2)〜小澤征爾が振った運命交響曲

2016.03.30.Wed.11:11
(前日のつづき)

水戸室内管弦楽団(MCO) 第95回定期演奏会の第2部は、小澤征爾氏が指揮するベートーヴェンの交響曲第5番ハ短調「運命」です。そもそも音楽会を指揮の有無で第1・2部と分けているスタイルって異例というか変だと思っています。
この日、冒頭に予定にはなかった献奏を指揮した後、小澤氏は第1部の2曲の演奏を舞台袖で聴いていたようです。ステージに向かって左手の扉が半開きになっていて、真っ赤な上着を着た小澤氏を私の席から確認できたからです。

第2部の小澤氏の運命交響曲(コンマスは豊嶋泰嗣氏)は、快速明晰なものでした。中編成のオーケストラで、かつ名人クラスのプレイヤーの演奏はそのディテールがきわめて明瞭に聴き取れました。バボラークのホルン、トゥーンドルのオーボエは抜群に上手かったし、あまりMCOのステージにのらないトロンボーンのアンサンブルも良かったです。亡きアルトマン氏に代わるティンパニーN響の竹島氏の叩き具合も悪くない。運命交響曲を演奏するための素晴らしい人選です。
それと小澤氏の師の齋藤秀雄氏の直伝の「叩き」の指揮法は、この曲の「ジャジャジャ・ジャーン」の主題労作の展開が、氏の抜群のリズム感によくフィットしていて躍動的な音楽をつくっていました。やや上っ滑り気味のMCOがそれに相乗し、強い推進力をつくって、フィナーレは圧倒的な大円団でした。会場は大喝采。抜群なリズム感と聴衆を魅了する音場感、よく設計された「運命交響曲」だったと思います。しかし私はもっと雄渾な音楽が聴きたかったな。

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それと演奏の印象を左右するテンポについて記したいことがあります。今回の小澤氏の「運命」のテンポ感が、1982年にカラヤン&ベルリンpoの録音と似ていたとホールで私は感じました。(私は演奏会前に手元にあった15種の「運命」のCDを聴きました。)これは帰宅後、何度も確認してみました。

水戸芸術館で聴いた小澤征爾と水戸室内管の運命(2016.3.25)の演奏時間
この演奏時間の記録は、NHK水戸放送局が茨城県内限定でライブ放送したこの音楽会の録画に基づいたものなので、かなり正確なものです。
第1楽章|7分17秒(第1楽章後の小澤氏の休憩57秒)
第2楽章|9分20秒(第2楽章後の小澤氏の休憩51秒)
第3楽章|5分05秒(第3楽章後の小澤氏の休憩0秒、当然です。)
第4楽章|8分39秒
合計時間|30分21秒

カラヤンとベルリンpoの運命(DG製1982年録音CD)
第1楽章|7分18秒
第2楽章|9分14秒
第3楽章|4分48秒
第4楽章|8分41秒
合計時間|30分01秒

第3楽章は17秒の開きこそありますが、それ以外はほとんど誤差の範囲と言ってもいいくらい同じ演奏時間にはビックリしました。第1楽章だけ、小澤氏の「運命」の録画と、カラヤンのCDを同時に再生してみたら、提示部の第1主題、第2主題、展開部、再現部、コーダのタイミングがほぼ一致していました。演奏内容を比較してみると、小澤氏は時空をタテに切るようなリズム感が際立つような演奏で、カラヤンは時空をヨコに流れるような滑らかな演奏だと思いました。小澤氏の師匠でもある晩年のカラヤンのテンポを意識していたかどうかは分かりません。カラヤンの「運命」からは老紳士が颯爽と乗馬する姿が見えましたが、一方で小澤氏の「運命」では超・高性能トランジスターラジオがジャンジャン鳴っている印象を持ちました。ほぼ同じ演奏時間でも印象がちがうのが音楽のおもしろいところです。

私が強く思ったことは、小澤氏の「運命」は強奏と弱音の対比はすばらしく、その絶対値の幅の大きさが演奏に強い推進力を与え、かつ圧倒的な音の量感によって、聴衆に強い感動を生む要因になっていたと思いました。しかしながら、1月に聴いたクリスティアン・ツィメルマンのシューベルトの晩年のピアノソナタの演奏のように、微妙なニュアンスや音色の変化を音楽の流れの中でもっと感じさせてほしかったというのが私の本音です。

もう一言、やはり楽章間の小澤氏の長めの休憩と給水は、音楽の流れを削いでいると思っています。体力を考慮して仕方がないというのなら、演奏後、メンバー全員と握手してステージを駆けまわる体力はどこから出てくるの?と感じました。「小澤さん、全然、元気じゃん!」と思いましたから。そのような体力を温存させているのなら、その体力を演奏の方に注いてほしいと思いました。楽章間に1分も間が空くのは正直、嫌です。

小澤氏は4月、久々にベルリン・フィルの定期演奏会に出演するそうです。プログラムは以下の通り。
♪モーツァルト作曲|グラン・パルティータK361(指揮者なし)
♪ベートーヴェン作曲|エグモント序曲op84(小澤氏指揮)
♪ベートーヴェン作曲|合唱幻想曲op80(小澤氏指揮)ピアノ:P.ゼルキン
このプログラムも後半2曲を指揮。演目は10分・20分の単品なので、楽章間の長い休憩はする必要がないですね。日本でもこういうプログラムでやればいいのにと思います。ドイツで演奏中に長い休憩を取ったら厳しい批評家に叩かれるからでしょうか?椅子に座ってもいいので、年齢相応の指揮をされた方がよいと思っています。日本では小澤氏は特別なのでしょうか?

いろいろ書きましたが、今回のMCOの定期演奏会では、第1部では亡くなった名ティンパニー奏者を悼む透明な哀しみに満ちた演奏、第2部では気迫ある小澤征爾氏の「運命交響曲」を聴けてよかったと思います。この稀有なる演奏会に誘ってくれたマイミクFさんに感謝します。

■水戸室内管弦楽団第95回定期演奏会
■2016年3月25日(金)19時@水戸芸術館

献奏(故ローランド・アルトマン氏のために)
♪モーツァルト:ディヴェルティメントK136から第2楽章(小澤征爾)

【第1部】
♪シベリウス:劇音楽≪クオレマ≫作品44より「悲しきワルツ」(指揮なし)
♪モーツァルト:クラリネット協奏曲 イ長調 K.622(指揮なし)
クラリネット独奏:リカルド・モラレス
【第2部】
♪ベートーヴェン:交響曲 第5番 ハ短調 作品67(小澤征爾指揮)

■オーケストラ出演者(各パート五十音順)
ヴァイオリン:安芸晶子、植村太郎、荻原尚子、久保田 巧、佐份利恭子、
塩田 脩、島田真千子、竹澤恭子、豊嶋泰嗣、中島慎子、
中村静香、依田真宣、渡辺實和子
ヴィオラ:大島 亮、川本嘉子、店村眞積、千原正裕 
チェロ:北本秀樹、原田禎夫、堀 了介、宮田 大 
コントラバス:池松 宏、助川 龍
フルート:岩佐和弘、工藤重典 
ピッコロ:小池郁江
オーボエ:フィリップ・トーンドゥル、南方総子
クラリネット:リカルド・モラレス、中 秀仁
ファゴット:ダーグ・イェンセン、依田晃宣
コントラファゴット:鹿野智子
ホルン:猶井正幸、ラデク・バボラーク 
トランペット:デイヴィッド・ヘルツォーク、杉木淳一朗
トロンボーン:呉 信一、新田幹男、野々下興一
ティンパニ:竹島悟史
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