エリソ・ヴィルサラーゼのピアノ・リサイタル

2014.02.05.Wed.09:27
■エリソ・ヴィルサラーゼ ピアノ・リサイタル
■2014年2月3日(月)19時@すみだトリフォニーホール

♪モーツァルト:ドゥゼードの「ジュリ」の「リゾンは眠った」による9つの変奏曲 ハ長調 K.264(315d)
♪ブラームス/ピアノ・ソナタ第1番 ハ長調 作品1
 【休 憩】
♪ハイドン/アンダンテと変奏曲 ヘ短調 Hob.XVII:6
♪シューマン/交響的練習曲 作品13(初版)
 【アンコール】
♪シューマン:『森の情景』より「予言の鳥」
♪シューマン:「献呈」(リスト編)
♪ショパン:『2つのワルツ』より変イ長調「告別」
♪ショパン:「華麗なる大円舞曲

はじめてエリソ・ヴィルサラーゼのピアノ・リサイタルを聴きました。
日本での11年ぶりのソロ・リサイタルは当夜の1回だけです。
たいへんにすばらしい演奏で、私は大感激でした。

ヴィルサラーゼはポリーニやアルゲリッチのようなビッグネームじゃありません。
CDの数もそれほど多くないです。
それにも関わらずホールはほぼ満席で、客層のレベルもよく、
演奏者・聴衆・ホールがつくりあげた非常に満足できるリサイタルでした。

ヴィルサラーゼが用意した4つの演目は
すべて変奏曲あるいは変奏曲的要素を持つもので、
古典派とロマン派の作品を交互に弾くという構成になっています。
ヴィルサラーゼの意図は何なのか?
私は事前にCDで予習試聴をしながら考えていましたが、
結局、私は結論にたどり着けずにいました。

しかしヴィルサラーゼの実演に接して直感したのは
作曲者の「声」が聞こえたような気がしたこと。
主題が変奏曲へと変容しても、
その主題が常に通奏低音のように感じとれるのです。
まさにそれが作曲者の「声」のようなものではないかと私は考えました。

ヴィルサラーゼはルーズ気味の漆黒のドレスでステージに現れました。
ピアノを弾く前、右手を譜面台の上に伸せるという独特の儀式(?)をした後、
演奏がすぐにはじめられます。
70歳を越え、見た目は魔法使い風のお婆さんですが、
実際に演奏を聴いてみると、年齢なんて関係ないことが分かります。
とても瑞々しい豊かな演奏でした。
(アンコールの時は少々、バテ気味でしたが…)

私、ときどき双眼鏡を使って彼女の指の動きを観察していましたが、
全体的に鍵盤を深く押さえ、音をしっかりと鳴らす奏法だったように思われます。
輝くように宙から舞い降りてくるというブリリアントな音というよりも、
私たちの足元からお腹に向かってズンズンと響いてくるような深い音でした。
全然、派手ではありません。
地味ですが、慈悲深い音楽をつくれる稀有なピアニストだと思いました。

モーツァルトの「リゾンは眠った」による9つの変奏曲はとてもかわいらしい音楽。
ピアノを用いてハープシコードような軽やかに弾かれる分散和音やトリルが典雅でした。
またゴールドベルク変奏曲を思わせるような表現にハッとしたり~w。

ブラームスのソナタの変奏的な緩徐楽章はメロディラインよりも、
内声部の響きにふくらみに軸足がある演奏のように感じられました。

ハイドンの曲は、たんたんと変奏曲が弾かれる中でコーダへ突入すると
ドラマティックな様相に大変身。
これってハイドン特有のビックリ的オチでしょうか。

シューマンの交響的練習曲になると、もうヴィルサラーゼの独壇場。
繊細な表現が重なり合って、大きな建造物をつくっていくかのような壮大な演奏。
シューマン特有の確信を伴った符点のリズムは何か憑かれているかのようですが、
一方で、その全体像と調和を意識している演奏だと思われました。
そしてシューマンがベートーヴェンの姿を追っている瞬間がみえた気がしました。
そういえば、ベートーヴェンも変奏曲の名手でしたね…。

演目終了後は拍手万雷。
アンコールはシューマンとショパンの小品が4曲。
ヴィルサラーゼも満足そうでした。

教育者である彼女の愛弟子に
圧倒的な超絶技巧のボリス・ベレゾフスキーがいますが、
音楽的な深さでは、ヴィルサラーゼに比べたらまだまだ青くさいです。

ヴィルサラーゼは名教師ネイガウスの高弟に師事したピアニストですが、
ネイガウスの愛弟子であるギレリス、リヒテル、ルプーらと同じ匂いを感じます。
太い根のようなものが大地の深いところまでしっかりとはっていて
その根から吸い上げられる知性や教養が
音楽に結実がしていることを実感できるからです。

私、このようなピアニストが聴きたいのです。

私が偏愛するルプーとヴィルサラーゼが
同門というのも自然なことのように思えました。
昨秋にきいたルプーの音楽が神々しいイメージとするなら、
ヴィルサラーゼの音楽は大地の音楽というイメージでしょうか。
一方で、ヴィルサラーゼが
「スターリンを叱ったピアニスト」、マリア・ユージナのように
かなり性根がすわった人間のように思われました。

最近、私が魅かれる音楽家って、
教師系の方が多いことは
偶然とは思えない感じがします。
実演は聴いたことがありませんが、
一昨年、テレビでみたアナ・チュマチェンコが弾いた
シューマンのヴィオリン協奏曲が忘れられません。
今回のヴィルサラーゼも言うまでありません。
教えることで得られる深遠なものって
有りそうな気がします。

当夜の演奏が、
3月21日夜にFMで放送されるそうです。
この日は絶対に外出しないで、
ヴィルサラーゼの演奏と再会したいです。

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