リパッティのニセ録音事件

2013.09.03.Tue.12:06
朝刊を開いたら、
作曲家・音楽評論家の諸井誠氏、
東京シティ・フィルの創設者、指揮者の堤俊作氏
の訃報をみてビックリしました。

学生の時に読んだ
諸井氏著の『コンサートの楽しみ方』は
私、かなり影響を受けました。
一流音楽家であっても、そうでなくても
音楽を聴くツボはいろいろあって、
聴く楽しみは自分の中で見つけるものだ
ということを学びました。

ご冥福をお祈りします。

8/30(金)の午前中にラジオで
昨年亡くなった音楽評論家の吉田秀和氏による
『名曲のたのしみ』の特番で
過去に放送された名解説が再編集されて放送されましたが、
その日は、「リパッティとツィメルマンのショパン」。

放送中、吉田さんは
ショパンの音楽はあまり得意じゃない~」と語っていました。
そういう点、私と気が合う(笑)
実は私、ショパン嫌いなのです。
しかし、イイ演奏のショパンなら聴ける。

ちょっと脱線します。
私、札幌勤務時に行きつけの寿司屋Fがすすきのにありました。
そこの親方、実は魚が嫌い~w。
しかし本当に美味い魚なら大丈夫…
という変わった方でした。
だから市場から買ってくる魚は抜群のものばかり。
この話、私のショパンの音楽との付き合い方と
通じるものがあります。

さて、この番組で紹介された
1982年1月31日に放送されたという
ルーマニア生まれの伝説のディヌ・リパッティのニセ録音の話に
正直、私はビックリしました。
はじめて知りました。

リパッティは、33歳で夭折した天才ピアニスト。
彼の透明感のある音色と洗練された演奏に
ファンは今でも多いです。
1950年に亡くなったので、録音が少ないことが残念です。
私が子供の時に好きだった『ウルトラセブン』の最終回で
彼が弾くシューマンのピアノ協奏曲イ短調がBGMで流れたことを
後から知って、私は大感激したことがあります。

吉田さんの話に戻しましょう。
放送で語られた話をまとめると~

1981年3月8日、
BBCの第3放送のクラシック音楽番組「レコード・ウィークリー」を担当していた
ロビン・レイが衝撃的な事実を明らかにしました。

番組に寄せられたある女性からの投書、
「ルーマニアの故ディヌ・リパッティが録音して
発売されているショパンのピアノ協奏曲第1番のレコードは、
ポーランドのピアニスト、チェルニー=ステファンスカの
同じ曲のレコードとまったく同じです」

を検証するために、
レイは問題の2枚のレコードをさっそく番組でかけてみました。
結果、誰が聴いてもまったく同じであることを放送で確認しました。
この番組後、大騒ぎになったそうです。
ロンドン・タイムスの第一面にもありあげられたとのこと。

問題のレコードの音源の出所は怪しかったらしいのですが、
このテープを発売前に確認したリパッティの未亡人のマドレーヌ、
当時のスイスの偉大な指揮者アンセルメ、
リパッティの録音をマネージメントしてきたウォルター・レッグらが
「リパッティの演奏にまちがいない!」と太鼓判を押したものだったそうです。
音楽をある程度、分かる人々がそのように言うのだから
多くの人がリパッティの演奏と信じてしまうのは自然のことです。
しかし、事実はニセ録音だった。
(間違えられたステファンスカの演奏そのものは立派なものだったそうです。)

それからしばらしして、
リパッティが弾いた同じ協奏曲の放送録音のテープが発見されたそうです。
音源の出所も確かで、さまざまな検証をして
リパッティの演奏であると断定されたそうです。
この演奏は、私が持っているCD、
オットー・アッカーマン指揮、チューリヒ・トーンハレ・オーケストラと同じもの。
(1950年2月7日のスイス放送)
リパッティが亡くなる10ヶ月前の演奏ということになりますね。
残念ながら、音質はあまりよくないです。

音楽評論家としての吉田さん、この件を語るには
「あまり楽しくはない」と言っておられました。

ちなみにこの放送が流された前年(1981年)、
あの「芸大事件」が起きました。
銘器と偽って、偽の楽器が芸大教授だった
有名ヴァイオリニストU氏の紹介で売買された事件。
紹介してくれる人も信用できるし、
偽の楽器を弾いて、誰もがイイ音だと思ってしまった。
だからそれを芸大に納めてしまった。
誰も疑いを持たなかった。
しかしニセ楽器だった。

吉田さんが言いたかったのは2つの事件を挙げながら
リパッティ事件のように純粋にまちがえてしまったと思われる場合、
芸大事件のようにヴァイオリン業者が悪意をもって人を欺こうとする場合、
いろいろありますが、
音を判断し評価するのは、それだけ難しい~
ということだと思いました。
音楽が分かるという人たちでさえまちがえてしまった。

だから吉田さん自身でさえ
まちがってしまうことがあるかもしれない。
しかし二度とまちがいをしません~とは断言できない。
こんなことは世の中にたくさんある。
でも、自分が間違いをしてしまったならば
「まちがいでした~」と正直に言うしかない~
ということでした。

吉田さんの評論の中で、
録音で聴いたある若手ピアニスト
(誰だったか忘れましたが~)の演奏をイイと評価したのに、
後日、実演を聞いたらガッカリだったという感想を書くことに
苦労の跡が見受けられたことがありました。
今思うと、それは上記のような事件のことが
反映しているのかもしれない~
と、私は思いかえしました。

放送の後半は、
クリスティアン・ツィメルマンのショパンの演奏。
彼のショパンの演奏は、官能的、感覚的なものというよりも
精神的なところを精一杯、出そうとしている演奏じゃないかと
吉田さんは語っていました。
私、12月にツィメルマンのピアノリサイタル(@すみだトリフォニー)を聴きます。
演目はベートーヴェンの最晩年のソナタ第30~32番。
特に32番ハ短調はマイブームの音楽。
吉田さんの話を聴いて、
ツィメルマンのベートーヴェンがとても楽しみになってきました。

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