水戸室内管弦楽団第87回定期演奏会(準メルクル&小菅優)

2013.07.17.Wed.15:21


■吉田秀和・生誕100年記念コンサートⅠ
■水戸室内管弦楽団 第87回定期演奏会
■2013年7月7日(日)14:00~@水戸芸術館

□指揮:準・メルクル
□ピアノ独奏:小菅優
□ヴァイオリン:安芸晶子、井上静香、植村太郎、川崎洋介、久保田 巧、佐份利恭子、
          島田真千子、豊嶋泰嗣、猶井悠樹、長原幸太、中村静香、沼田園子、
          松野弘明、渡辺實和子
□ヴィオラ:大島 亮、モーリン・ガラガー、川本嘉子、店村眞積
□チェロ:上村昇、北本秀樹、堀 了介、松波恵子
□コントラバス:河原泰則、渡邊章成
□ピッコロ:白石法久
□フルート:岩佐和弘、工藤重典
□オーボエ:フィリップ・トーンドゥル、森枝繭子
□クラリネット:四戸世紀、中 秀仁
□ファゴット:鹿野智子、マルテ・レファート
□ホルン:ジュリア・パイラント、猶井正幸
□トランペット:デイヴィッド・ヘルツォーク、松居洋輔
□トロンボーン:呉信一、新田幹男、野々下興一
□ティンパニ:ローランド・アルトマン

  【潮田益子さん追悼のための献奏】
♪モーツァルト:ディヴェルティメント ニ長調K.136(125a)より第2楽章
  【インターバル】
♪細川俊夫:室内オーケストラのための〈開花Ⅱ〉(日本初演)
♪ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番ハ短調作品37
  【休  憩】
♪シューベルト:交響曲第8番ハ長調D944〈グレイト〉

水戸室内管弦楽団(MCO)第87回定期演奏会が終わって10日ほど経ちました。
いままでに私が聴いたMCOの定期の中でも出色の内容で非常にすばらしい音楽会でした。
刻印された感動をしばらく封印して、
この演奏会が「いったい何であったのか?」を
ちょっと冷静になって考えてみたいと思い、
少々、時間をおきました。

私の知り合いのクラシック音楽好きの方々も、
今回の水戸定期または東京公演をお聴きになった方が多く、
ブログなどですばらしい感想を書かれていて、私は感じ入りました。
その中で、
7月6日の水戸定期をお聴きになった知人のベルウッドさんの感想にあった
「開花」というキーワードで演奏会の全体像を表現されていたことが印象的でした。
細川俊夫の「開花Ⅱ」は言うまでもありません。
これは苦海穢土の泥沼から浮揚昇華し美しい花を咲かせる蓮を思わせる音楽だからです。
小菅優をピアノ独奏に迎えてのベートーヴェンの第3番のピアノ協奏曲。
ベートーヴェン中期の独自の世界へと飛躍する《開花》として響いて聴こえ、
シューベルトの交響曲第8番では、ハ長調の壮麗な《開花》万華の響きになっていた
と記されていました。

はじめ私は、、
この演奏会は、昨年お亡くなりになった水戸芸術館館長・吉田秀和さんの
「生誕100年記念コンサート#1」と銘打たれていたことから、
演目や出演者を知った時、
「吉田さんも聴きたいと思うような選曲だね~」と思いました。
かつて二十世紀音楽研究所を設立した吉田さんなら
欧州で活躍している現代音楽の作曲家・細川氏の
新作の日本初演の作品は絶対に聴きたいはずだし、
またベートーヴェンにとっての特別の調性であるハ短調のピアノ協奏曲、
しかも独奏者は吉田さんがとても嘱望していた若手ピアニストの小菅氏。
シューベルトの交響曲第8番ハ長調は、吉田さんの著書『私が好きな曲』で
膨大なシューベルトの作品群の中にあって、もっとも好きな曲として選出されています。
お亡くなって1年を経た直近の定期演奏会となるので、
すばらしい演奏供養になりそうだと私は思いました。

しかしながらこの演奏会のあり方を再考させ、
より深い思いを抱かせてくれたのは
5月に亡くなったMCOメンバーの潮田益子氏の死を悼み
献奏が追加されたことに起因します。

前半のモーツアルト、細川、ベートーヴェン、後半のシューベルトの作品を聴き
当初、想定していた音楽会の全体像のイメージが変わりました。
前半は、楽団創設20年を遡行しながらMCO20年の「成果」を確認する、
そして後半は、次の20年に向けて挑戦するMCOの未来像、
というものが演奏後に強く印象づけられたからです。
ヘ-ゲル風に言うなら、この2要素の止揚によって
MCOは歴史をさらにつくるということでしょうか。

国際的な舞台で活躍を続ける
優秀な日本人演奏家たちからなるMCOの中にあって
亡くなった潮田さんは創設メンバーであり、楽団をずっと牽引してきました。
献奏曲、モーツァルト作曲のディヴェルティメント ニ長調K.136(125a)は
吉田さんや斎藤秀雄氏の門下生が多いMCOのメンバーにとって、かけがえのない作品です。
まさにMCOの原点、あるいは「卵」のような曲。

この日は指揮者なしで粛々と演奏はすすみました。
アンダンテの音楽がアダージョに聴こえるほどゆっくりとしたテンポ。
祈るように~。音を慈しむように~。
モーツァルトの明朗な音楽が、ここでは美しく哀しく響きました。
楽団員たちの潮田さんへの敬意と哀悼の念がとても感じられるものでした。
余談ですが、潮田さんのご主人のローレンス・レッサー氏は
ボストンから水戸までわざわざ音楽会を聴きにきていたようです。
また翌日の東京・サントリーホールでの公演では
小澤征爾氏の指揮で演奏されたそうです。

これまでMCOは日本人の現代作曲家へ新曲の委嘱、初演を行ってきた経緯があります。
次に演奏されたのは細川俊夫作曲・室内オーケストラのための〈開花Ⅱ〉の日本初演。
私はこのような現代音楽を聴く時はできるだけ頭の中を白紙にするように心がけます。
その音楽のファースト・イメージでどのような景色が見えるのかが楽しみだからです。

ピーンと張りつめた超弱音は無の中の微風の音。
空気が振動しているかのよう~。
とても透明な世界の中に、「チーン」と風鈴の音。巡礼者か?
そして湧き上がるような音は雲?
その雲がだんだんと大きくなっていて山のようになった。
私がネパールを外遊した時、
ヒマラヤの山中のトレッキングした時のことを想起しました。
谷間の風の音や、修行僧、突然現れた名峰の威容が思い出されます。
まさに西洋の手法を用いて、
東洋の聖なる概念を表現した音楽だと思いました。
作曲者は「泥沼から美しい花を咲かせようとする蓮」のような
宇宙的エネルギーを表現したということなので、
私がみた景色とはそれほどちがってなさそうです(笑)

7~8年前に、MCO定期で細川氏の「ピアノとオーケストラのための〈月夜の蓮〉」の
日本初演が小澤征爾指揮、児玉桃ピアノ独奏で演奏されたことがあります。
これはモーツアルトのピアノ協奏曲23番イ長調のオマージュとして作曲されたもの。
「蓮」のイメージを主題にした透明な音楽を思い出しました。
「月夜の蓮」と「開花Ⅱ」の蓮つながりの兄弟関係と言えそうです。

「蓮」につづくのは小菅優氏のベートーヴェン作曲、ピアノ協奏曲第3番ハ短調。
私は小菅氏が今、取り組んでいるベートーヴェンのピアノソナタ全曲演奏会を
東京まで追いかけて聴きに行っています。
ここまで小菅さんがライジング・スターになった理由のひとつは、
水戸芸での数々の演奏機会だったと私は思っています。

小菅さんの演奏を聴いた生前の吉田さんが
「胸の中に燃えるような気迫がある」と書いていましたが、
まさにそれがよく当てはまっていた演奏だと思います。
圧倒的な瞬発力で弾かれる上昇スケールやクレシェンドのフレーズは
音を聴いただけで小菅さんの演奏と分かるものでした。
特に第1楽章のカデンツァはすごかった。
しかし私がもっとも感動したのは第2楽章のラルゴ。
それと長いフレーズを緊張を途切れることなく弾く持続力!
「祈り」のような心がこもった音楽でした。

以上の前半3曲で、MCOがこれまでやってきた創設20年の歴史が
とても集約された感じで聴こえてきたのでした。

後半のシューベルト作曲、交響曲第8番ハ長調「グレイト」は、
ほんとうにグレイトな演奏だったと思います。
室内楽のよう弦の鋭角的なきざみ、きわめてヴィヴラートを抑えた奏法、
かなり早めのテンポ(私の時計で演奏時間は約46分程度、通常は50~55分)

シューマンがこの曲を〈グレイト〉と言ったのは
「天国的な長さ」という永続的な水平性という意味だと思いますが、
私、メルクル&MCOの〈グレイト〉演奏は、
「天国へ伸びる」鉛直性が表現されていたと思いました。

地に蒔かれた種が早送りのように成長します。
美しいメロディの対位は絡み合いながらどんどん大きくなる。
そしてある瞬間、天まで劇的に圧倒的に突き抜ける。
ジャクの「豆の木」のように。
積み上げるというよりも、私は植物的な伸びやかさ。
私が今までに生演奏や録音で聴いたものとは異なる、
他のどこにもない演奏。
誇れる演奏だったと思います。

プレイヤーの中でのMVPは、オーボエのフィリップ・トゥーンドル氏。
彼は全身で音楽を表現しながら、美しい歌を奏でていました。
サッカーでいう守備的MFのボランチは、
管弦楽ではオーボエだと思います。
汗かき役であり、全体のバランサーであり、推進力です。
MCOは素晴らしい「魔法の葦笛吹き」を得ました。

準MVPは、ティンパニーのローランド・アルトマン氏。
本当に第二の指揮者のようでした。
メルクル氏が気持ちよく指揮ができたのは、
彼が黒子になってくれたからでしょう。

美しいトゥーンドル氏のオーボエのソロを横目で聴きながら
アルトマンさんは「うん、うん」とうなずいているように見えました。
元ウィーンpoの首席だった百戦錬磨のアルトマン氏は
トゥーンドル氏に合格点を与えていたようです(笑)

冒頭で、私が〈グレイト〉から受けた印象を
次の20年に向けて挑戦するMCOの未来像と書きました。
「シューベルトが想定していたと思われる作曲当時のオーケストラの編成規模で
いかにこの作品の交響的拡がりを表現するかが課題であり挑戦である」という
演奏会前のメルクル氏の言葉を借りたわけではありませんが、
創設者の吉田さんや、創立メンバーがだんだんと減っている中で
新しいメンバーが加わっていくことで、MCOも変わっていくと思います。
良いものを受け継ぎ、新しいものをつくっていってほしいと思っていますが
それが今回の〈グレイト〉によく表現されていて嬉しかったです。

私はメルクル&MCOの演奏の〈グレイト〉を聴いて
今後のMCOの進むべき方向は、
機動力や俊敏性がある「スモール・ベースボール」、
またはディフェンスラインとフォワードの距離感を短くして
ショートパスをつなぐ「コンパクトなサッカー」というイメージを持ちました。

塁を進め、パスをつなぐという野球やサッカーの基本は
オリジナル、原型を大切にしながら、
大編成の管弦楽ではできない境地を
粒ぞろいのメンバーで描いてほしいです。
FCバルセロナのようなコンパクトで美しく夢のあるサッカーを、
MCOは今まで以上に音楽で紡いでくれそうな気がしました。

余談ですが、
今年は1月に大野和士氏の指揮で
シューベルトの小ハ長調の交響曲第6番が聴けました。
そして7月はメルクル氏の指揮で大ハ長調の8番が聴けました。
来年1月は小澤征爾氏の指揮で7番「未完成」が聴きたいな(笑)


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